嫁いだ娘さんが来たときに便利なように駐車場を広げたいというのがご要望の主旨。でもただ機能的に2台分を確保するということではなくて、ご主人には“こだわりの構想”が浮かんでいました。水彩画を趣味とするご主人がイメージする外構とは・・・、玄関前に湘南の波のようなおだやかな曲線の段があって、それがクルマ止めをかねている。オープンスタイルで、土間にも円形や曲線のラインか張り分けがあるというものでした。そして、例えばこんな感じということでスケッチを手渡されました。
こうなると俄然燃えるのです。いつものように自分発のデザインではなく、お客さまがある程度イメージしていることをデザイン的に機能的に成立させるという作業は、チリチリと感じる胃の痛みをアドレナリンで押さえ込むような、マラソン大会のスタート前みたいな感じなのです。「いいぞいいぞ、このプレッシャー」と自分を鼓舞しながら設計をスタートしました。
Plan A
Plan B
この2プランをお出ししてご検討いただき、出来上がったのが次のPlan Cです。
Plan C
さらに細部を変更して、最終的に次のPlan Dになりました。ご主人の反応もGO!胃の痛みがスーッと消えるうれしい瞬間なのです。
Plan D
庭部分はご主人と奥様のお楽しみとして取っておくこととなり、さあ、大掛かりな外構リニューアルの開始です。
ご主人が想い描いたイマジネーションのスケッチが現世に出現しました。
Before
After
Before
After
Before
After
まずイメージすること。イメージできたら出来たも同然。これはこの仕事をしていて常に考えていることです。日に何度か、かれこれ20年以上も。一万回以上ですね。今では考えるというより、呼吸するようにあたりまえのことになっています。
この“まずイメージすること”というのが、私以外の普通に暮らす人(私は、はっきりと普通ではありません。連日無理矢理にでも夢を見続けるというような仕事なので)にとって、いったいどういうことなのか、どれだけの価値を生むことなのか、あるいは生活上で必須とは言えない趣味や嗜好のたぐいなのか、すでに特殊な世界にカスタマイズされた私にはそれを実感を持って把握はできないような気もするのですが、時々出会う“イメージの達人”は共通してエネルギッシュに生活を組み立てているということもまた実感なのです。
過去、イマジネーション過多、表現欲過剰で不自由な人生を送った芸術家は限りなくいます。美術や音楽の歴史はそういった人たちの悲喜劇の歴史でもあります。で、現代、心の時代と言われている今、イメージすること、表現したい欲求は生活にどう影響するのでしょうか。たぶん、ものすごく大事な何かがそこにある気がするのです。ものすごく大事な、子育て成功の秘けつとか、夫婦円満のカギとか、家内安全商売繁盛のモトとか、そういう幸福のの種がそこにあると。私自身がイマジネーションや表現を生活の糧にしているので、かえってあまりきっぱりと言い切れないのですが、だまされたと思って、私が呪文のように唱え続けていること「まずイメージすること、イメージできたら出来たも同然」を時々思い出してつぶやいてみませんか。きっと“イイ感じ”なことが起こりますよ。
駐車場に使用した素材はヤキスギレンガ、土間コンクリート、エスビックのアースクウォーツ、同じくエスビックの桂林です。アースクウォーツと桂林は硬質の乱形石材で、いろんな石材のサンプルを並べて検討しているときに、この組み合わせが妙にピタッときたので2種類を使う設計になりました。
余談ですが、駐車場にジュラストーンを使っている外構をよく目にしますが、ジュラストーンはとても柔らかい石なのであまりおすすめできません。下地からしっかりとした施工をすればひび割れないのですが、現実にはあちらこちらでクラックを目にします。天然石の中では比較的安価で施工もしやすいために多用されていますが、やはり駐車場にはちょっと・・・。これから新築や外構リフォームを予定している方は要注意です。
桂林
アースクウォーツ
波形の階段は何種類かの半径が違う曲線の組み合わせでできています。施工上中心点に杭を打てない線もあるので、オフセットでこまかく数字を入れた施工図にしたがっての工事でした。職人さん泣かせのラインであることは重々承知で設計しています。愚痴も言わずに(私に聞こえないだけかな?)熱心に施工してくださった小高組の片山さん、ありがとうございました。石の乱張りは矢沢タイルのトミー(富田さん)、何ケ所かダメ出ししてしまいましたが、愚痴も言わずに(たぶん私に聞こえないだけだな!?)見事に直していただいて感謝しています。
こういう優れた職人さんがいなければイマジネーションを具現化することはできないのです。
既存の間知ブロックにアンカーを打ってコンクリートブロックを積み、家の外壁との調和を考えてさんざん迷って決めた色のジョリパット(着色モルタル)で仕上げました。
門塀部分には駐車場と同じヤキスギレンガで笠木をし、フェンスは玄関前の階段とイメージを合わせて波形のフェンスにしました。
お隣との目隠しは極力主張せずかつ強めに(その場所がお隣の立水栓でしょっちゅう顔を合わせるので、お隣さんが気遣いするのではという榎本さんがわの気遣いで、関係はとても良好です)ということで、木工フェンスを必要な部分だけ2スパン施工しました。
表札は以前10月28日に、カテゴリ/デザインルームの『ゴッツエエ感じの表札』でご紹介した大阪発のゴッツエエ表札です。
ポストは東洋エクステリアのユーロブリーズ。一昔前まではポストのバリエーションが少なくて「頼むから誰かいろいろつくってくれ~!」という感じでしたが、最近はイメージに合うものを探し出すのに時間がかからなくなりました。エクステリア業界のデザイン性、提案力が充実してきたということでしょうか。
立水栓のデザインはご夫婦と打合せ中にイメージをお聞きして、その場で描きました。庭はとりあえずこの水栓だけで、あとはご夫婦のお楽しみです。まずは芝生からとおっしゃっていました。今後どう仕上がって行くのか、近くを通るたびに覗いてみたい気がしています。
お客さまがお持ちの溢れるイマジネーションをカタチにするという今回の仕事、心地よいプレッシャーを楽しませていただきました。