拝啓 聖ジョン・レノン
あなたが地上から消えて40年が経ち、世界はご覧の有様です。地上に遍く信徒が「国境などないんだとメージしたまえ」というあなたの託宣を胸に暮らしてきましたが、たかだかウイルスごときにやられてしまい、ちょっとした戦争よりも遥かに大勢の命が奪われました。国境は封鎖され、ある国は隣国を非難し、ある国は死者よりも選挙だと大騒ぎをし、ある国は貴族たちが経済と命を天秤にかけるばかりで被害が広がり続けている状況です。地球はまるで、たちの悪い住人で満室の、老朽化したアパートみたいになっています。
もしも今、新たなる言葉を授けてくださるなら、何とおっしゃるだろうかと、夜の庭であなたの降臨を待ちましたがお見えにならないので、想像してみました。するとすぐに答えが出たので、これはあなたが伝書鳩を飛ばしてくださったんだと解釈した次第です。
愛し合いなさい。
そうおっしゃりたいのですね。ですよね。そうなんですよね。40年前からすでにそれが不足していることを薄々感じていましたが、確かに、次の世界を思い描くためには愛し合うことが大前提だと、夫婦が、親子が、濃密に思い合い、濃密に愛情表現をし、濃密に受け止め感じ合いながら暮らすことを抜きにしたなら、このみっともないほどおかしな世界を立て直すことなどできませんよね。
ウィルス以前に、日々に幸福を感じている人の何と少ないことか。親の不仲で子供が傷つき、愛情不足で生まれた狂人が徘徊し、ストレスで家庭がギスギスし崩壊して行く。いやはや、危機に際して家族を愛せない、そんな世界になってしまいました。