明けそで明けないシトピッチャンの土曜日に、大五郎くらいの子どもを連れたお父さんが勢い込んで入ってきました。
あの、相談いいでしょうか。
はいはいどうぞ。
中古の家に引っ越して、庭の木を抜いて、根っこも取って、端から耕していったら庭全体が泥の池みたくなっちゃったんですけど、どうしたらいいでしょう。
スマホで状況を見せてくれました。
ああ、土が膿んじゃったんですね。雨降りに土いじりをすると田んぼの代かきみたいなもので、そりゃあ池になりますよ。とにかく天気が良くなってカチカチに乾くまで庭に出ないでください。
そうなんですかあ。嫁にせっつかれるし、早く庭をなんとかしたくて張り切ってたんですけどねえ。そうですか、雨の日の土いじりはダメなんですね。
若い父親の気負いというのはいいものです。そして父になる、アイ・アム・ア・ファーザー 、頑張れお父さん。
ところで、耕した後になにをしようと思っているのでしょう。つまりどんな庭をイメージしてますか?
そうですねえ、とりあえず土だと草が生えるので人工芝にしようかと。
ふむふむ、なるほどですねえ。最近は良質のが安く手に入るので、それもいいかもしれませんね。
で、その後は何を。
え、それで完成ですけど、ってつもりだったんですけど、あとは何か花を植えたらいいんでしょうか。
・・・あのお、奥様のご要望は?
草取りをしたくない、土いじりをしたくない、虫がきらい、とにかく庭が嫌で嫌で仕方がないようです。嫁の実家は庭があって、両親がいつも庭のことでもめてたらしく、あまりいい印象がないみたいです。ぼくはマンション育ちだからよくわからないし・・・。
そうだったんですね。では頑張ってください。
土が乾いてからの人工芝の施工方法を解説し、お父さんはそれをスマホに作業手順をメモしながら聞いて「とてもよくわかりました。そうかあ、雨続きじゃあ手も足も出ないわけかあ。早く晴れないかなあ」と、美しく敷かれた人工芝の庭を思い描いているようなワクワク顔で帰って行かれました。
その間、大五郎くんはベビーカーにて穏やかにスヤスヤと。子どもは両親を映す鏡ですから、きっと仲のいい夫婦なんだろうなあという印象。
後日再び来店した若いお父さんは言いました。
あれからこちらのホームページを見たんですけど、とりあえず人工芝じゃなくて本物の芝生でスタートしようかと思いまして。ちょっと感動したんですよ、「芝生の状態が俺の状態なんだよ」って言ったおじさんの話と、庭は住む人を映し出す鏡なんだっていうことに。
それはそれは。でも手入れとか、大変じゃないですか。
いや、子どものためにもその方がいいと思いまして。それに、思い出したんですけど、ぼくはもともと芝生に憧れがあったし。
で、奥様は?
じっくり話したら、庭が嫌いなんじゃなくて、夫婦で揉めるのが嫌なんだそうです。いっしょに施工例を見たら結構乗り気で、ぼくの思い通りにやっていいってことになりました。
はは、よかったですね、めでたしめでたし。
今度は高麗芝の張り方を下地づくりから丁寧に解説し、芝生が青々としたら、その後に展開できる楽しい庭の姿を何通りかスケッチして手渡しました。
頑張れお父さん。懐メロだけど、小坂明子の「あなた」とか、加藤和彦の「家をつくるなら」なんかを聴いてみて。そして夏の終わりのハーモニーが流れる頃に、後日談をお聞かせくださいね。