E&Gアカデミーの皆さんに刺激をもらって元気一杯、充電完了状態になりました。さっ、いつもの設計戦闘モードに戻って仕事仕事。ブログもまた基本パターンの設計~施工完了までをアップします。今日から数日間ご紹介するのは仲良し熟年夫婦、小川さん家のガーデンリフォームです。
いつの間にか雑然としてしまった庭空間。ご主人の定年を機に決心したガーデンリフォームです。
ご要望はガゼボハウスを建てたいということと隣家との目隠しです。隠すべきところを隠して、居場所をハッキリさせて、“過ごす庭”を実現させようという理にかなった発想です。
Plan A
このPlan Aをご覧いただきながら現地で検討。ガゼボの位置や目隠しの施工範囲、植栽などを変更して出来上がったのが次のPlan Bです。
Plan B
ご夫婦そろって第二の人生を充実させようという強い意志が伝わってきて、こちらもいつもにも増して力が入りました。
Before
After
Before
After
Before
After
ガーデンリフォームのスタートはまず“気付くこと”です。現在の庭を見て「このままじゃ嫌だ」、漠然とでも「もっと○○にしたい」と感じることです。毎日見ている場所、見なれている風景なので、なにか不便でも感じない限りなかなか意識には入ってきません。これはリビングや寝室や台所でも同じで、遊びに行ったよその家のことは新鮮なのであれこれ感じますが、自宅のことはまったくピンとこない、そういうものです。
小川さんご夫婦が、ご主人の定年を機に庭をつくり替えて生活を充実させよう、そう発想したこと、その瞬間が素晴らしいことなのです。そこから、その時点ではイメージできていないすてきな時間と空間が次々生み出されていくのですから。生活の有り様を左右する分岐点がこの発想すること、そしてそれを広げる“イマジネーション”なのです。
ご夫婦のイマジネーションは消えること無く膨らんでいきました。庭で過ごしたい。ガゼボハウスがあったらすてきだ。そしてそのためには目隠しが必要だ。ここまでがおぼろげながら見えてきました。もうそれで充分です。ふつう、なかなかここまでイメージを展開できないものなのですが、ご夫婦の生活設計に対する積極的な想い、パワー、そしてその大元の夫婦仲の良さが、一瞬の発想を消さずに具体的なシルエットまで描かせたのでしょう。
ゾーニング、導線計画、立体構成などの他に、素材の選択によって仕上り感は大きく変わります。素材の色と質感、もしかしたらこれが庭の印象を決定する最大の要素かも知れません。
まず最初にガゼボの素材と色が決まりました。奥様は塗装などの手入れがいらない樹脂の製品をご希望で、色はサッシに合わせて白で、庭のアクセントと“ガーデニングな感じ”を狙って柱はグリーンを選択されました。この時点でアジアンやシックではなくて、ヨーロピアンで明るい雰囲気という方向性がハッキリして、それに従って他の石や砂利を選びました。
一番の問題は既存の飛び石とゴロ太石、この和風の石をどう使うか。
玄関側に元々ある建仁寺垣をどうするか。まだ新品でもったいないし。一応Plan A ではこれを撤去して目隠しフェンスは全て板張りにするという提案をしましたが、検討の結果やはり残すことに。そりゃあそうですよねえ。
ここで発生する問題は・・・。既存の建仁寺垣は和風の代表選手のようなもの。それをどうやってヨーロッパ調の庭となじませるかということです。その時に頭に浮かんだのは、外国人の旅行者が浅草で買って帰った浴衣をリビングの壁にに掛けて、タペストリーのようにインテリアとして楽しんでいる、洋書の写真集で見たそんな風景でした。怖がることは無い!何でもあり!要は使い方なのだ!そう自分を鼓舞しつつも「さてどうしよう」。
こうなると設計が進みません。最初はあれこれ考えてはラフスケッチを描いたりしていましたがやがて思考停止。次の設計を先に完成させてから再び取りかかりました。そして思い付いた方策は「元々あった飛び石も使って和と洋を混ぜてしまえ!」。建仁寺に加担する素材を増やしてバランスをとって、和と洋を混ぜて馴染ませてみようと思ったのです。
門扉側からはレンガと化粧砂利をのばして、玄関側からは飛び石と石組みの花壇をのばしました。これで和と洋がバシッと別れることが無くなって、ちょっと不思議な感じの空間ができあがりました。問題解決のための方策、理由から生まれる形、これもデザインなのです。・・・。こういう時の決め台詞「アバンギャルドでしょ!?」
ガゼボはタカショーのロイヤルガゼボハウス、アルミと樹脂でできています。手入れをしながら風合いを楽しむタイプの庭では木製の、例えばオスモのガゼボをおすすめしますが、今回はメンテナンスフリーをご希望だったのでこれにしました。部材はエバーアートウッド(アルミ材のプリント仕上)の基本構造とプロラフィード(樹脂)のラティス。現物を見るまでほんの少しだけ「もし人工的な感じだったら・・・」という不安がありましたが、さすがはタカショー製品、細部までこだわったハイセンスな出来で安心しました。
こんな風に居場所を立体的に構成すると、庭空間に意味が出て広くなったような、濃くなったような感じがします。別注で柱をグリーンにしたのも正解でした。
庭の外周の目隠しも手入れがいらないということでタカショーのエバーアートウッドを選択。板の隙間が25ミリの製品を使いました。出来上がってから奥様から「もう少し強く目隠しがしたい」というご要望、苦肉の策で裏側から白で半透明のポリカーボネート板を張り付けました。これが怪我の功名でして、目隠し感は高くなりつつ庭全体が明るく柔らかい感じになりました。今後も使いたい方法です。
今回はお客さまのご希望もあって、アルミや樹脂の製品を多様しました。そのせいでしょうか、左奥の建仁寺垣(樹脂製品)がわりと違和感無く馴染んで見えます。
『隣り合う和と洋で製品の形も色も違っていて、それでも、樹脂なら樹脂で質感を統一するとそれなりの“馴染む”感じが出せる』という発見です。
こういうことを発見(実感)したとき、内心小躍りしてよろこんでいます。ニュートンになったような気分。クレイジー・ケン・バンドの横山剣さんは、いかすフレーズやメロディーが浮かぶとすぐさま自宅に電話をかけて留守電に録音するそうです。そして「やったー!オレって天才!イイネ!イイネ!イ~~~ネ!」そんな感じだそうです。似てます。そうそう、そんな感じ。これでまたひとつ設計の引き出しが増えました。
庭のあちらこちらにちりばめられている小物に、小川さん(たぶん奥様)の庭への想いの強さ、イマジネーションの一端を見ました。
こういった庭の小物類は、さあっ、と一度に買いそろえるのではなくて、普段の買い物や旅行でたまたま見つけたもの、それらがいつの間にか増えて庭をにぎやかに演出、というのが一般的だと思います。つまり、日頃からわが家の庭のことが意識の中にあるということですし、それだけ庭が生活上重要な場所になっているということです。もし家を一歩出たら庭のことなどこの世に無いことのように忘れてしまう(たいがいの人はそうですし、まあそれでいいのかもしれません)という方は、旅行先などで庭の小物を買い求めることはしないでしょう。
リフォーム前から集めていた庭小物、その時のイマジネーションがこの思いきったガーデンリフォームの序章だったのでしょう。これらをひとつ買うたびに「庭を○○な感じにしてこれを置いたらすてき」というように、庭の未来像が浮かんでいたのだと思います。これがイマジネーションの“マジック”なのです。「イメージできたら出来たも同然!」、私が日に何度か呪文のように唱える言葉、まさにこのことなのです。
強く思う必要はありません、疲れますから。時々消えてしまいそうなくらい小さくてもかまわないのでイメージし続けていると、あーら不思議、気が付くと実現しています。私の仕事はそのお手伝い。そして我が生活、大きくいえば人生もまたこのマジックによって出来上がったものなのです。空想癖のある12才のいわふち少年は、35年後、いろんな夢を実現してほぼイメージ通りの生活を送っています。ただ一点、貧乏なことを除けば。
小川邸のガーデンリフォーム、最後は恒例の“草花”です。
私は自営業の家に生まれ育ったせいか、定年後の生活ということを考えたことがありません。CKBのニューアルバムGALAXYの2曲目“ハマのアンバサダー”に出てくる生きる限り現役で勝負だという歌詞に深くうなずきファイトが湧いてくる、そういう仕事観です。ですからもしもある日職を失ったり、定年を言い渡されたら・・・。ものすごい恐怖を感じます。仕事抜きの人生についてあまりリアルに考えたことが無いからです。数年前に亡くなったじいさんも最後に入院する前日まで忙しく働いていました。きっとそういう血なのです。
今回の小川さんのように、ご主人の定年退職を機に庭をという方が年々増えていますので、そういう方々がガーデンリフォーム後、ご夫婦でどれほど豊かな時間を実現しているかも、妻カオリちゃんと一緒にさんざんうらやましがりながら見てきました。第二の人生までもしっかりとイメージして成功させているお客さま方を(自分に欠落していることなので)心から尊敬し、いつか自分たちもと考えたりもしますが、妻も自営業育ちで生活イコール仕事という感覚なので、たぶん我々は一生仕事、元気で一直線に二人三脚で駆け抜ける人生という感じでしょうか。まあ、それも良しです。
世はついに2007年問題に突入!テレビでも頻繁に団塊世代の定年後についてやっています。営業や販売や生産といったアナログな仕事でがんばってきた人は定年後パソコンなどのデジタルな趣味に。経理やシステム開発や管理部門でデジタルな仕事をしていた人は野菜づくりや魚釣りといったアナログな生活にという傾向があるそうです。いづれにしても団塊世代って理屈っぽいだけではなくて(すみません)案外粘り腰といいますか、定年退職という状況の変化にとても積極的な適応行動をとっていらっしゃるようです。OK!その調子です。がんばれ団塊世代!で、次の課題は年金制度が変わることで急増が予想されている熟年離婚だそうでして、まあ、庭に意識が行くほど人生を充実させているうちのお客様方には無縁のことです。競争競争で生きてこられたみなさん、今度は奥様と一緒に家庭や自分達の時間を充実させる競争です。