静かな傾斜地の森に建つ、かなり力の入った和風の中古住宅を購入された高塚さんちのガーデンリフォームです。
訪問して、まずはそのロケーションにうっとりでした。上大岡の街を見下ろす高台で、芝生の庭の山側は家を被うほどの高さに木が茂っています。そしてそこに落ちついた木造の和の家。まだ若い30代のご夫婦だったので、こういう物件を見つけて選択した、そのセンスの良さに脱帽でした。ちなみにご主人はメジャーなゲームクリエーターで、奥様は画家という、創造を生業とするご夫婦なのです。
ビフォーはこういう状態でした。
芝生が荒れていて背後の傾斜地も雑然としていました、が、木戸から玄関までの延べ段(アプローチ)の仕上りがすばらしくて、ここを建てた方と施工した職人さんの気合いが感じられました。それと同時に、この延べ段を生かしつつこれに負けないリフォームを提案しなければと、内心グッと力が入りつつ、その気負いとかすかな不安を表情に出すことなく(えぇ、大人ですから)、打合せを行い、案の定なかなか考えがまとまらないで3日ほど唸って、ようやくレノンが降りて来てくれて(2006年1月19日『レノン降臨』参照)出来上がったプランがこれです。
正直に白状すると、設計に時間がかかったのはこういうことなのです。延べ段を一目見て「うまい!気合い入っとる!・・・まいった」と感じてしまったことで、設計のフィールドが変わってしまったのです。私はもともと自分で設計して自分で施工していました。それが一番楽しく、また細部まで思う存分こだわってつくれるからです。そしていつのまにか、ひとつの設計上のポリシーめいたことが出来上がっていました。それは 自分でつくれないようなデザインはしない というものです。設計しながら「この曲線のレンガ花壇はここを基準にしてこう積めばいいんだ」とか「このデッキの根太は○○センチのスパンにすれば大丈夫」などと考えながら、ひとりで段取りをブツブツつぶやきながら設計しています。つまり自信満々な世界が出来上がっていくわけです。そこに延べ段が突き刺さって来たのです。「自分にはこれほどの延べ段はつくれない(かもしれない)」とチラッと思ってしまった瞬間から、いつもの、イマジネーションを自由自在に踊らせながらする設計ではなくて、「この延べ段を活かす設計をしなければ」という 延べ段との勝負 の戦う設計作業になったのです。この2つはまったく違うフィールドでして、勝負は勝たなくてはならないので、そのために普段ほとんど使わずに壊死している左脳を使わなくてはなりません。タクティクスが必要なのです。建築家とのコラボやデザインコンペの場合はこのフィールドです。ここしばらくそういう機会もなかったもので、取っ掛かりがうまく入り込めなくて・・・。でもまあ、レノン降臨からはいつもの感じでやれました。
デザイン関係の人には理解していただける話だと思うのですが、そうでない人には「こいつは一体何を言っているのだろう」というような話でしたね。まあこんなこともあります。
既存の延べ段に負けない仕上りを目指した
勝負に出た設計、高塚さんちのビフォー・アフターです。
Before 1
After 1
Before 2
After 2
Before 3
After 3
Before 4
After 4
いかがでしょうか。
芝生の見切りとの法面の段々花壇を御影石のピンコロを使って整備して、一部の樹木を伐採し、芝生を張り直したという内容です。明日はその仕上り具合をご覧ください
やりたいことは芝生の見切りと花壇の土留め。仕上りは上品な和風で、できれば単一素材で、天然石の格が高い延べ団に負けない質感とボリューム感を出せる物。・・・さんざん考えて、たどり着いた答えはサビ御影のピンコロ石でした。この主となる素材がピタッと決まったことで、気持が軽くなり頭の中に涼しい風が吹いて、あとはいつものように右脳がサラサラと仕事をはかどらせてくれました。
明日は斜面の途中に見えているウッドデッキです。これは私の設計には入っていなくて、奥様のアイデアによって生まれた場所です。出来上がってみてびっくり。素晴らしい!この庭の特等席になりました
ひと通り工事が終わって、高塚さんちの庭を楽しむ生活がスタート。その後何度か奥様から花壇の増設など、実際に過ごしてみてひらめいたり感じたりした追加工事の相談がありました。このウッドデッキもそうでして、始まりは奥様のイマジネーション。
私、出来上がってみて初めて コリャーすごいよ! と興奮してしまいました。
たいがいのウッドデッキはリビングの外、部屋が庭に向かって広がった感じの設定です。ところが今回は家と離れている。しかも階段を上がって行くという山の中腹です。内心チラッとですけど、ここにつくってはたして存分に楽しんでいただけるだろうかという気持があって・・・。というのは、普段設計していて「せっかくコストをかけるなら、それ以上の楽しさや利便性、生活がより充実したという感じを味わっていただきたい」と考えているために、なかなかこのような設定のデッキは私からは提案しづらい。今回は奥様プロデュースだったために実現したわけです。
私が興奮した理由は、そこに上がったときに、まだ少年だったころ読んだ『トムソーヤーの冒険』に出て来た ハックルベリーフィンのツリーハウス だと思ったからです。まさかこの歳になって、あの夏休みに夢中で読んだトムとハックの世界を体感できるとは。ファインダーを覗きながらしばしトリップして、下界の上大岡の街がミシシッピーの流れに、庭でうろうろしていた妻カオリがあの悪者インジャンジョーに。数分間の一人遊びを楽しみました。
使い込んでいるキャンドルから、ご夫婦がここを楽しんでいる様子がつたわってきました。奥様にとってはこのデッキはハックのツリーハウスではなくて、バリの離れ小屋のイメージなのでしょう。すばらしい!
『感じなければ本当は何も見えていない』『イメージできれば出来たも同然』『Break On Through To The Other Side.』 ・・・そういうことです。
高塚さんちの庭はペットの楽園です。人なつこいネコとカメ2匹が自由に歩き回っています。双方とも全く人を気にしない性格で、広い庭でのんびりゆったりと過ごしています。
このネコちゃん見てると、ほんと、うらやましくなります。可愛がられて、自由で、広い芝生、ウッドデッキ、縁側、森、家の中と快適な場所を探しては昼寝をしています。
大きい方がメスで小さいのがオスです。いつも仲良し、というか、オスが一生懸命まとわりついているのに、メスは迷惑そうにしています。でもいつも一緒で歩き回ったりじゃれ合ったり花壇の花を食べたりしています。
ペットのほかにも昆虫や野鳥やは虫類が出没する、野生の王国みたいな庭なのです。
高塚邸の庭で見つけた小物です。それぞれから庭のある生活を楽しんでいる様子が伝わってきます。
まずは干物をつくるためのカゴです。ご主人が海釣りが趣味で、施工中に干物をわけて頂きました。最高に美味かったです。(大漁の時にはまたお願いします)
他にも高塚さんちらしい小物が庭を楽しく演出していました。
明日は高塚さんちの最終日。何日か前に予告していた 微気候 についてです。
あまり一般的ではない言葉ですけど
微気候 というのをご存じでしょうか。比較的小さい範囲での気候変化のことです。例えば海辺や森の中、アスファルトで固められた住宅地。大きくとらえた天気予報での気象情報と違う気候がその範囲にだけ発生するのです。
高塚邸で撮影しながらこの微気候を実感しました。ご覧のように森の中にあるような宅地なので、明らかに周囲より涼しいし、空気が心地いいのです。
これは単に木陰ができるからということではないのです。樹木は人間と同じで、体温が40度に近くなってくるとダメージが大きくて、策を講じないと枯れてしまうそうです。それを防ぐために何をしているかというと、葉を茂らせてそこから水分を蒸発させ、気化熱を発散させて冷えた空気を自分の幹や根元に下ろしていく。人が暑い日に汗をかくのと同じこがなされていて、その結果木陰が涼しいというわけです。この樹木による自然のクーラーの恩恵を受けながら暮らすことの気持ち良さといったらもう、快適の極みなのです。
ネコもカメもその快適さを感じるようで、暑い日は木陰でじっとしています。そして人間も。
周囲や頭上に大きな木があるときに感じる気持ち良さは、気温だけではなくて、湿度やマイナスイオンやフィトンジットなどの複合的な要素によるものなのでしょうか、ちょうど、ホノルル空港に降り立った瞬間に感じる 空気が違うわ~!きもちいい~! という、体感だけではなくて気持までマッサージして楽にしてくれるような、そういう種類のものです。
庭木を選ぶときにこのことも考慮すると、木が育つほどに快適さが増す、そんな庭になるのです。
以上、森の中の、デジタルとアナログのアーティスト夫婦がペットと暮らす和風の家、高塚さんちのガーデンリフォームでした。