今日から4回でご紹介するのは京急沿線の駅近くで3代続く医院のお庭です。一般的なリビング外の庭と違っていて、普通の生活導線から離れた場所に休遊地があるという感じで、だからでしょうか、あまり有効に使われていない場所でした。庭の裏手はすぐに川が流れていて心地よい風が吹きそうです。最初にご提案したのはご家族で川風を楽しみながらバーベキューや食事ができる場所というイメージだったのですが、リビングから離れていることから、そうではなくてガーデニングを楽しめるようにしたいということでした。ならばこんな感じでどうでしょうとお出ししたのがこのプランです。
三角形の土地に円を組み合わせながら、ゾーン分けと敷地いっぱいの導線、まくら木のパーティションとアーチ、ウッドパネルと円形花壇などで厚みとフォーカルポイントをつくりました。かなり図形チックですが、時間が経ち、植物が育ってそれを薄めてくれることを期待しつつ、あえてそうしました。それは、今まで活用されなかった土地で、(必然的に)生活パターンを変えてまで「これからガーデニングを楽しむのだ」という挑戦のためのベースとして、線や形で場を和ませたり活気づけた方がいいと考えたからです。遊園地みたいに構成された空間がガーデニングへの意欲やモチベーションになれば、そう考えたわけです。機能性だけの構成ではなくて形や仕切りや質感で何かを仕掛けていく、ガーデンデザインのひとつの勝負どころです。でもこれをやり過ぎたり、方法を誤ると庭が台無しになってしまうので、設計は行きつ戻りつしながらの丹念な作業になり、描き上がる頃にはすっかり自分が図面の縮尺になって、この庭を歩き、腰掛けてお茶を楽しみ、しゃがんで植物の手入れをしていました。そんなときはまずOK! なのです。たいがいイメージどおりの庭が出来上がります。
明日はビフォー・アフターです。アフターは完成から2年後、期待どおりに植物が図形を薄めてくれました。
Before
After
Before
After
Before
After
完成直後は空き地に大きなコンパスで線を描いたような感じだったのですが、時間がそれを馴染ませてくれました。レンガも風合いを増していて。2年がかりで安堵したのです。
お医者さんがガーデニングを楽しむ庭です。日頃は圧倒的にデッキやテラスがメインのリビングガーデンの設計が多いので、最初は頭の切り替えが必要でしたが、途中からはスイスイと楽しく夢中で仕上げました。設計しながらこのガーデンリフォームが宮川さんご一家にとって意義あるものになるようにと、デザイン的な策略をちりばめた庭です。最も危惧したことは日常の生活導線から庭が離れているということです。意識しなければ庭に出ないまま過ぎてしまう。こうして2年後を拝見すると設計時の願い以上に楽しんでいただいていると感じて、とてもうれしく、ありがたく思いました。
撮影した写真をお送りしたところ、とてもていねいなお礼状をいただき、恐縮してしまいました。「こちらこそ、本当にありがとうございました」
庭のあちこちにおもしろい小物が配してありましたので、明日はそれをご覧下さい。
この小物たちからも、日頃から庭を楽しんでいただいている様子が伝わってきます。お医者さんという仕事は強いストレスを受ける仕事で、同時にそういったことの専門家でもあるわけで、この庭の楽しみ方こそがヒーリングガーデンのモデルケースなのかもしれません。
この積極的に庭のある暮らしを組み立てている様子、その力に敬服しました。「こういうすてきな先生とご家族だからこそ、地元で3代続くという信頼が築けているんだろうなあ」。これは撮影の帰り道で妻カオリちゃんが言ったひとことです。同感! その感じを見習ってうちらもがんばらなくては。