亡くなった主人が庭担当だったんですけど、私は全然興味がなくて、木がたくさん繁ってるし、雑草だらけだし、どうしたらいいですかね。全部引っこ抜いて庭中をタイルかコンクリートにしたいんですけど。
ふむふむ、ご主人は庭好きだったんですね。
ええそれはもう、毎日庭に出ては何かしていました。昔はそんな人じゃなくて仕事仕事で家になんかいなかったのに、定年してからは人が変わったようで、とても楽しそうでしたよ。私はお友達と遊びに行くのがいそがしくて庭なんてどうでもいいっていうか、主人の遊び場だから放っときましたけど。
一緒にお出かけとかしなかったんですか?
ぜんぜん。男の人はひとりが好きなんでしょう。それとね、歳がいくほどいい具合にボケが来ちゃって、そこそこ苦労しましたよ。耳も遠くなるし、その分声が大きくなるしでもう邪魔で邪魔で。あら、こんなこと言ったらバチがあたりますね。庭仕事のせいか足腰は達者でしたけどね。
いつ亡くなられたんですか、ご主人。
この夏です。コロナじゃないですよ、心臓。突然でした。トイレから出てこないから見に行ったら、もう。お医者様は「きっとご本人も気が付かないほど、痛くも苦しくもなかったと思います」って。貧血みたいに意識が遠のくんですって。気休めでしょうけど、そう言われるといくらかほっとするような。
検死医のたしなみかも知れませんが、女房のお父さんの時にもそう言われました。まあひどいことじゃなかったということで良しとしましょう。ピンコロピンコロ、理想的です。苦しいのはこっちも辛いですからね。さ、生きてるうちに楽しみましょ!
で、庭をどうしましょうか。コンクリートにしてしまえば楽は楽でしょうけど楽しくはないですよね。苦労を減らすのは大事なことなので、庭以外に楽しみは山ほどあるでしょうし、まあそれもいいと思いますけど。
そうねえ、・・・お友達はバラを植えなさいよって言ってくれるんだけど、バラって難しいんでしょ。
もしもお友達もバラをやっているなら伺ってみてください。全然難しくなんかないですよ。
あらそう。だったらやってみましょうかねえ。主人は和風が好きだったからバラはなかった。私は洋風の方がいいから。でもその前に、あのジャングルガーデンをどうにかしないと。
大丈夫ですよ、ちょっと整備して、手のかからない庭に仕立て直して、それから思いっきり花を増やしてください、まるで極楽浄土みたいに。なんならバラはうちで植えましょう。
あらやだ、土を無くそうと思って伺ったのに、すっかり園芸おばあちゃんを目指す気持ちになっちゃった。あなたは不思議な方ね。他のお店で相談したら、何坪だからタイルにするといくらですって、いつやりましょうかって、すぐにそんなことになっちゃって、なんとなく違うかなあって思ったのよねえ。
ぼくって不思議ですか。ははは、よく言われます。よかった変な人って言われなくて。とても頻繁にそう言われるもので。でも、たぶん、最初からそんな庭にしたいっていうイメージがあったんでしょ。きっとそうだと思いますよ、ご主人がいつもそこにいるような庭を、今度は自分好みにして暮らしたいって。
いいご夫婦だったんですね。
まあ、ねえ。