「そんなこと言ったっけ」
「ずっとそれが頭にあってね、わたしは穴を大切にして食べていた。あなたもそうだったでしょ?その穴に、私たちの重大な何かがあるんだって思っていたから」
「なるほど。で、ついに食べ終わったら、大切な穴もなくなっていた、と」
「そう、そんな気がして」
「大切に育てていた花が綺麗に咲いて、咲き終えて枯れた。それで君は落ち込むかい?」
「違うのよ。花は花、穴は穴。もうあの穴は存在しないのよ。ありもしない理想の関係を、大事に大事にしていたってことなのかしら。多分そう、幻想を信じて、食べ尽くしたら永遠のゼロ。愚かな日々だったってこと。何やってたのかしらわたしたち。バッカみたい」
「『チーズはどこへ消えた?』ってことだと思うけど。読んだ?あれ」
「違う違う、チーズじゃなくて穴。トムとジェリーに出てくるチーズに空いている穴じゃない、ドーナツの穴。甘くて香ばしい輪っかの中心で、何もないのにすごい存在感を発揮しているブラックホールみたいなあれのこと。・・・これで終わったのね、わたしたち」
「おいおいどうした。ただ単に、買い置きを食べ終わっただけだと思うんだけど、違うのかな。駅ビルにミスタードーナツが入っているから、帰りに買ってくるよ。『いいことあるぞ〜』ってCMでやってるじゃん」
「やったー!わたしはエンゼルクリームをお願いね。知ってるわよね、私の好物」
「え、あれって、あのアンパンみたいなやつって穴がないよね」
「あなたは分かってないわね。あの穴なしドーナツは世界が逆転していて、ドーナツの周りが『穴』なのよ。だから食べ尽くしても穴は消えない。わたしが消えない限り」
「・・・なんだかよくわからないでど、すごい発想。一休さんか!はたまたオノ・ヨーコか!
・・・でもさあ、ドーナツ食べたいくらいで、深刻な顔して大げさな話をするのはよしてくれないだろうか」
「ごめんなさい、すっごく食べたくなったもんだから、つい。あ、ついでにマグワァンプ(お花の肥料)も買ってきてちょうだいな。花たちにもおやつをあげないとね」
「はいはい」

















