さあ今日から新シリーズです。背後に迫るコンクリート擁壁と急傾斜の緑地帯、一目見て「いいなあ」と唸ってしまいました。どこからも視線は気にならないし、このこもった感じを活かして隠れ家的な特等席をつくったら最高に楽しい場所になるだろうなあと。しかし奥様は・・・。
3年前の新築時に現在の庭が完成して、とってもいい感じの業者さんだったそうで、新築直後の限られた予算内でいろいろと苦心して施工してくれたということでした。しかし生活してみるとどうもしっくりこなくて、結局のところ3年間全く庭を楽しんでいないのだそうです。それどころか嫌いな虫が何種類もうろつくので庭に出ることも無し、さらにリビングからの景色もコンクリートと雑草できれいではないため、やがてカーテンも開けない生活になってしまったそうです。
これがその庭。
Before
ご家族がこの庭を楽しめずに過ごしてきた理由は、私にははっきりとわかります。いくつかあります。パッと見庭っぽく仕上がっているんですけどねえ・・・、その理由、なぜこの庭では楽しめなかったのかはリフォームした庭の解説の中で。
奥様のリフォームへのイメージがあまり具体的ではなかったので、まずは、このロケーションが我が家の庭スペースだったら、そういう気持でデザインしました。つまり私の理想型。
意識したのはリビングからの眺めと庭での具体r的な過ごし方でした。設計しながらすでにイメージの世界で私はこの庭を満喫していました。それがこれです。
Plan A
円形バーベキューテラス、囲炉裏、シエスタベンチ、コーナーパーゴラ、ぬれ縁、砂場、マリンライト、ガーデニングスペース、エゴノキ、レモン、ドラセナ。
奥様は一時引っ越しを考えるほどこの裏庭のロケーションが嫌だったといいます。しかし私には最高の場所に思えまして、夢中で設計し、いろいろな要素がピタッとはまった『レノンが降りてきた』状態の設計作業でした。
これをご覧いただいて、おおむね気に入っていただけましたので、これをベースにいろいろとご要望をお聞きして、で、出来上がったのが次のPlan Bです。
Plan B
どうです、この変化わかりますでしょうか。具体的にはぬれ縁がなくなったり縦格子のパネルが増えたり、素材の色が変わったりしていますけど、こうしてあらためて眺めると、Plan Aが私の庭だったのに対してPlan Bは完全に奥様の庭になっていると感じました。
最初のプレゼンテーションから変更打ち合わせまでの間、ご夫婦で庭に紐を張ってゾーニングを確認したり、雑誌の写真を切り抜いて、それを立体的に貼り合わせた庭の模型を作ったりされていて、それらを使って、ご夫婦が(主に奥様が)イメージする庭を私に伝えてくださいました。その結果がPlan B。もう私の理想型ではなく奥様の理想型に仕上がった気がして、私の感覚だけでは絶対に出現しなかったPlan B、年に何度かあるこういう展開は設計者の目指すべきところであり、実にうれしいことなのです。
『庭に厚みを持たせる』、設計するときに考えるいくつかの要素のひとつです。厚みを感じることでそこに行きたくなったり、その場にとどまっていたくなるもの。その厚みとは、庭の構成物に高さがあって、それらが相まって居場所としての認知エリアを平面から3次元に広げるという空間的なことに加えて、何を期待し何のためにそこに行くのか、そこでどう過ごすのかといった行動のイマジネーションも必要で、庭を眺めたときにいくつもの行動が分厚くイメージされる、これが感覚的な厚みです。
Before 1
After 1
この空間的な厚みと感覚的な厚みがビフォーからアフターへの最も大きな変化なのです。
Before 2
After 2
空間的な厚みを出す技術は古来よりの造園技術で蓄積されていて、庭師と呼ばれる人にとっては普通のことでして、問題は感覚的な厚みの方。
Before 3
After 3
その庭から感じる何かしらの情緒や感動、楽しい会話や行動、至福の時がイメージできる庭をどう組み立てるかがガーデンデザイナーの役割でして、これは庭師さんや外構職人さんの世界とは違う領域の仕事なのかもしれません。
『庭に厚みを持たせる』、引き続きご覧ください。
Before 4
After 4
繰り返しになりますが、空間的な厚みと感覚的な厚み、特に感覚的な厚みが庭を魅力的な場所にするということ、何となくでも感じ取っていただけるでしょうか。
Before 5
After 5
感覚的な厚みというと漠然としますので、シーンメイキングと言ってもいいんですけど、要するにその庭で何をするのか、どういうシーンが展開されるという予感を感じるのかということです。
Before 6
After 6
この庭で言えば、家族で、あるいは友人を招いてバーベキュー。庭で朝食。風呂上がりに夕涼み。ご夫婦でキャンドル灯してナイトキャップ。ハーブや野菜や花を育てる。レモンを収穫する。近所の子供たちも集まって砂遊びやプール遊び。おとなはストレッチや筋トレ、縄跳びなどでメタボ対策。何かいいことあったら記念樹を植える・・・。こういうことが繰り広げられたらいいなあ、そんな願いを込めて設計しました。
ビフォー・アフターの最後は庭からはなれて家の脇です。ここも奥様が気になっていた場所で、庭と同じく3年前に平板と砂利で仕立てたものの、ジメジメしていて平板は苔ですべるしアリやムカデが出没するということで「カラッとスッキリした場所にしたい」ということでした。
それではということで、全面的にコンクリートを打ちました。ただし普通の土間コンクリートでは味気ないので仕上げを洗い出しにして。
Before 7
After 7
カラッとスッキリ!
Before 8
After 8
最初お話をうかがったときには「普段見えない場所だしそこまでやらなくてもいいんじゃないかなあ」とも思ったのですが、こうして出来上がってみると「いいなあ」と。何がいいのかというと、この改良によって見た目のスッキリ感とともに「さあてここで何をしようか、何を置こうか」という新たなイマジネーションがわいてくる気がしたからです。
これなんですよねえ、イメージすることの重要性って。私は気にならなかったこの場所が奥様には気になってしょうがなかった、つまり生活、住まいに対する思いが私よりも奥様の方が強かったということです。こういう変えなければ変えないで別にどうということなく暮らしていけることに対して「もっと」という欲求を持って「こういうふうに」というイメージが出来ること、こういう奥様がいる家庭は全てにおいて進化を続けるんですよねえ。生活が進化する家と停滞しやがて退化していく家と、いろいろです。できることなら「もっと」「こういうふうに」というイマジネーションを強化して、進化する家庭でいたいものです。
次回(時々さぼるので明日と言えない情けなさ・・・)は庭の構成や細部についての解説に入ります。
全体を見渡しながら、最初にこの場所を見たときに何を考えたかをお話ししようと思います。
急傾斜地の下の谷底のような場所です。そのことが奥様としては不満で・・・、となると設定というか前提条件が不満な訳ですからそこをどのように仕立てても不満な場所から抜け出すことは出来ないのです。しかし私は即座に言いました、「最高の場所ですね」。外界から遮断されたこのこもった場所、私に取ってはホント、最高の条件なのです。
一年中庭を設計し、次から次からそれが現実の空間になるという、考えたら魔法の世界にいるような生活をしながら、いつか自分のための理想の庭をつくるとしたらというようなことをよく妄想しています。その庭は北向きのアトリエの外に広がる庭とも雑木林ともつかないような、タヌキや蛇やよくわからない精霊みたいなものまで住み着いている薄暗い場所を背景に、そこだけ光が差し込んでくる、そんな感じで、今の時期なら夕方からマツムシの声が滝のように降り注いで、そこには囲炉裏とシエスタベンチがあって、丹精して育てたハーブや草花と収穫間近の椎茸と、毎日みそ汁の具になるネギやモロヘイヤやナス。夜が深まって虫も鳴きやみ静かになった庭、マリンライトで浮かび上がるその場所に出て、キャンドルライトで妻とワインを・・・。ここまでイメージしたところで次に出てくるのは、いつも酔っぱらった妻があれこれ愚痴を言い出す場面でして、そこで妄想は中断されるのです。
妻の酒癖は横に置いといて、つまりこの谷底のような場所は、私の理想とする庭をつくるのに最適なのです。
一応奥様にそのことを話して、とりあえず私のイメージする庭のプランをご覧いただくことにしました。密かな期待としては、嫌いだというこの場所に対するイメージが変わってくれたらいいなあと。
一般的に、庭は広くて明るくて眺望が開けて風通しがよくて、そうイメージするものですが、それと正反対の、狭くて暗くてこもった庭もいいもんですよ。その庭のベンチで『霜降る朝にふたつ並んだムクロになれたらね/斉藤哲夫』、理想の夫婦の理想のラストシーンなのです。
この庭のメインはバーベキューテラスです。ヤキスギレンガでつくった円形の囲炉裏を中心にして『集う』場所を構成してあります。
コーナーパーゴラとそれに組み込んだ木製パネルで居心地を良くして。ここでちょっとイメージしてみてください、もしこの立体的な構成物が無かったら・・・、囲炉裏と椅子だけだったら落ち着かないですよね。これが場に厚みを持たせるということ。
そしてここで使っている縦横格子のパネルを庭の反対側にも設置して、これで庭全体に統一感と厚みができました。
パーゴラの下に三角形のベンチ、これが大好評のシエスタベンチです。バーベキューのときの主賓席で、ポイントはゴロッと寝転がれる広さがあること。ここにあぐらをかいたり酔っぱらったらうたた寝をしたり、普段でも昼寝ができます。そうそう昼寝、これって庭の醍醐味の一つです。NHKの昼の憩いを聞きながら、横になって、木漏れ日やそよ風を感じながらウトウトする、至福の時。
囲炉裏はまだ使っていなくて、近々知り合いのバーベキューの達人と仲良しのお隣りさんを招いて『初バーベキュー』の予定だそうです。楽しみですねえ。
私から、あると便利なバーベキュー用品をプレゼント。着火剤とトングと送風機と網を掃除するブラシです。
いやあ、気持いいだろうなあここで、バーベキュー。
今朝はスタッフの気合いが合致して、早朝まだシーンと静かな時間に全員集合しました。店の掃除をさっさと済ませて今日の段取りをして、それぞれの現場やほかの店へ「行ってきま~す!」と出発。いいんだなこういう感じ。仕事は気合いなのです。みんな、今日も一日がんばってよー!
和室前には当初のプランでは広い濡れ縁がありましたが、それよりも庭にフリースペースの広場が欲しいというご希望でこうなりました。乱張りに使用した石は最近気に入って多用している『リリーホワイト』というもので、和にも洋にもなじむ感じで設計上とても重宝しています。
このスペース、夏はプール遊び。他にはストレッチや縄跳びなどトレーニングに使ったり、植木鉢を並べてコンテナガーデンにしてもいいですし、大勢集まってのパーティーでは椅子テーブルを出せます。もっと大勢のときはカーペット敷いて卓袱台出せば庭の大宴会場になります。
その向こうに小さい子が2~3人は入れる砂場。こちらのボクちゃん、きっと遊びまくってくれることでしょう。今2歳半くらいかな?はたして何歳まで砂遊びに興じてくれるか、とっても楽しみなのです。これまでいくつも砂場のある庭をつくってきましたけど、子供にとって、特に男の子には砂場が必要なのです。穴を掘って、団子を作って、創造と破壊の繰り返しに熱中するのが男の子の本能なのだと、砂場で無心に遊ぶ子供たちを見ていてつくづく思います。
で、ライトが3灯。ここ蔵前さんちから坂を下ると本牧通りで、すぐそこにある麦田トンネル抜ければそこは『ザ・ 港ヨコハマ』。夜には裏の傾斜地の向こうから横浜港の汽笛が聞こえる、そういう場所ですから、照明はこれ、マリンライト。いやあ、今回は一瞬の迷いも無くマリンライトです。
夜になるとカーテン全部開けて過ごしているそうです。マリンライトの情緒ある灯り、イイ感じなのです。その夜景は後日アップします。
リフォーム前の庭で唯一お気に入りだったのがこのモミジでした。今回プランに合わせて移植し配置を変えました。
そのモミジの脇に植えたのがエゴノキ。秘話のほぼ中央にあるこの木が育てば育つほど庭の厚みが増します。
そしてコーナーパーゴラの奥にレモン。当初直植えの予定でしたが、植え穴を掘ってみたら水が湧き出てきたので断念し、鉢植えにしました。このわき水、けっっこうきれいで沢ガニも出没するということでした。そのうちこの水を利用して池や流れをつくるのもすてきだろうなあ、そしてカワニナが生息できればホタルを飼育できます。ホタルが飛び交う山手の庭・・・ここの環境ならできる気がしています。と、できたばかりのお庭の未来を勝手に妄想。
この小さいレモンがこれから半年かけて大きくなります。来年は十数個、再来年には数十個収穫できるでしょう。
庭の背後にある傾斜地に生えていた棕櫚の木(トウジュロ)、エキゾでヨコハマっぽくていい感じです。クレイジーケンバンドの横山さんが自伝で書いていました、「棕櫚の木が昔のヨコハマを思い出させる」。この木もおそらくそうですけど、山手に残る手つかずの傾斜地や雑木林には鳥が運んできた実生の棕櫚が多く生えています。この棕櫚、元々は鹿児島や奄美のもので、江戸時代に大名や豪商がその権力や財力の象徴としてつくった庭園にはるばる船で運んできて植えたものが、今では一般的な庭木になっていると考えられます。棕櫚の他にはソテツやユッカ、時々見かける芭蕉(バナナ)もそうです。庭を見下ろすようにそびえる棕櫚の木、ラッキーなおまけでした。
次のナンテンとドウダンはリフォーム前から庭に植わっていたのを配置を変えて植え直しました。両方とももう少し茂ってくれると後ろのコンクリートが隠れて庭が落ち着いてくるでしょう。
ドウダンの脇にレトロなポンプ。これは奥様のリクエストで設置しました。
こういうものに魅力を感じる奥様の中のバックグラウンドに興味がわきました。井戸ポンプとか真っ赤なずんどうの郵便ポストとか、今の子供たちには???なんでしょうねえ。
忙しさに負けてブログのアップをさぼりがちなこと、反省しています。フェンシングでメダルを取ったあの子・・・ウ~ン名前が出てこない・・・まあいいか、彼は14年間一日も休まずに練習していたそうです。継続は力なり、単純なことを休まずに馬鹿みたいに繰り返すタイプが成功するんですよね、というかそれが基本でありそれができることが才能なのかもしれません。私はというと、365日庭のこと考えているかというとそうでもない。大晦日と元旦は完全オフで、他に家族旅行や疲労困憊のダウンで数日、まあ10日間ぐらいは頭から仕事が消えます。ですから355日。残りの10日間を仕事で埋めれば、そしてそれを14年間続けたら業界のメダリストになれるかな?まあその前に倒れますね。凡人は凡人らしく、いいかげんさをなくさずに、日々設計のためのベストコンディションの維持を心がけたいと思います。
では蔵前さんちを再開します。今日はリビングからの眺め。外に部屋ができた感じになりました。
これがリフォーム前の風景。背後の傾斜地のコンクリートと雑草、眺めていても楽しくもないし、庭に出るどころかカーテンを閉めて過ごすことが多かったそうです。それが改善されたことをとても喜んでくださっています。
庭でどう過ごしどう楽しむかということと同時に、リビングから見える風景によって室内の生活が変わるということも重要なポイントです。カーテンとサッシを開けて暮らすこと。室内と同じ感覚で外にも行けること。イメージできたらできたも同然、庭が生活の場所になることをイメージできるかどうかなのです。
庭が生活エリアになると、ガーデニングにも熱が入るものです。それまで鉢植えでコンパクトに楽しんでいた草花を地に降ろしました。あまり意識されない方が多いのですが、鉢植えは植物にとって過酷な環境なのです。ですからこうして庭に植えると驚くほど成長し、開花期間も格段にのびます。水やりもたまにでいいし楽して何倍も楽しめる。庭が生活エリアになるってのはこれと同じことで、家族みんなが楽して何倍も楽しい暮らしになるのです。鉢植えの暮らしから地植えの暮らしへ、これもイメージしてみましょう。
今日は朝から雨で、何か台風も近づいているとのこと。昨日までの連休はお客様との打ち合わせが続いてほとんど外に出っぱなしでしたので、今日はじっくりと設計に没頭します。
毎度おなじみのバーベキューテラスが今回は和の仕立てになっています。それは奥様の好みが反映された結果。室内にもあちこちに和テイストがありましたので撮影しました。
ボクちゃんも和です。
こういうふうに生活空間をきちっと好みのテイストでまとめていくのって、才能なんですよねえ。やわらかく緩やかに、しかしぶれることなくコツコツとこだわりを表現していく感じ、いいなあこういう奥さんがいたら・・・えっ、うちの妻ですか、表現する仕事を私と一緒にやっているので、私共々とてもじゃないけど私生活の空間までこだわるエネルギーは残っていないのです。ふたりとも毎日ありったけのパワーを仕事で使い果たしてしまうので我が家の生活空間はガッシャガシャ。時々時間を作っては掃除や模様替えを試みるものの、私がイメージしているようなリゾートホテルのような暮らしにはほど遠くて。おっといけない、「イメージできたらできたも同然」というセオリーからいうと、そういう生活が実現できていないということはイマジネーションが弱いということですね。忙しさを言い訳にしてはいけません、リゾートホテルのような生活空間をイメージし直します。
以前にも書きましたが、照明計画はなかなかむずかしい。実際にでき上がってみるまでイメージ通りの効果が出るかどうか不安なものです。しかし、毎度おなじみのこのマリンライト、さすがにこれだけ繰り返し使うと、設計段階でのライティングイメージがほぼその通りに実現できるようになりました。
今回はそのマリンライトを3灯使用して、
で、こうなりました。
奥様から「夜になるとカーテン全開で庭を眺めて過ごすんですよ」とうれしいお言葉。
ブログのアップが滞りがちで長いこと小出しにするようにご紹介してきた蔵前さんちも、今日で最終です。
新築時に思い通りの庭ができなかったために、3年間も全く楽しめなかった場所が、ご覧の通りで家族みんなが楽しめる場所になりました。
私の提案をベースにして、奥様が一生懸命イメージを練り上げ伝えてくださった結果の庭です。一昨日も触れましたが、奥様のイメージを具現化していく力、軽やかな粘り強さみたいな感じがとても印象に残っています。いい刺激を得られた楽しい仕事でした。
その奥様との出会いはホームズ新山下店、明日から数日その出会いの場所『Garden Friend』をご紹介します。ちなみに私、今日の午後はその『Garden Friend』にいますので、みなさまぜひ遊びにきてください。場所はホームズ新山下店の外売り場の小屋です。